大きな恐竜の模型、マッサージチェア、ジムスペース……遊び心あふれる空間かと思いきや、さまざまな技術の社会実装を目指す実験場も、異分野の知識とアイデアをディスカッションする場もある。まさにイノベーションを誘発する価値創造のラボラトリー「ICI総合センター(以下ICI)」。
ゼネコンから“総合イノベーションプラットフォーム”へと変貌しようとする前田建設工業株式会社が2019年2月、110億円を投じて茨城県取手市に開設したICIは、さまざまな個人・法人・公的機関による「知のネットワーク」を実現する空間です。
ICIとは一体どのような場所なのか。同社はなぜICIを立ち上げたのか。ICI総合センター 先進技術開発センター長の上田康浩さんとカタリストの坂本寛人さんに話をうかがいました。
「前田建設は、ダムのリーディングカンパニーとして始まり、ビルやスタジアム、空港、発電所など人々の生活に必要なインフラをつくり続けてきました。ただ、これからは建設業界も変わっていかなければなりません。ただ発注通りに建設するだけでは、事業としていつか限界がくるでしょう。だからこそ私たちはインフラの建設のみならず、事業の構想から管理運営までをトータルに担う総合インフラサービス企業を目指しているのです。」
総合インフラサービス企業に生まれ変わるためには、多くの知恵と新しい技術が必要。そこで同社では既存事業の領域とはまったく異なる分野のイノベーターやベンチャー企業とタッグを組み、革新的な技術やサービスを社会に実装するという試みを始めています。
ICIのコンセプトである“B with B to S(Society)”という言葉は、その想いからつくられたもの。社会実装までを自分たちが支援するという覚悟がこの言葉には込められています。
そのために生まれたのが、異分野との共創によるオープンイノベーションの場、「ICI」です。
知見が必要であれば専門家を。資金が不足していれば出資を。設備や実験の場を必要としているのであれば巨大な実験棟を自由に利用できます。お互いがwin-winの関係を築きながら「社会実装」、つまり実際に世の中の役に立つサービスを生みだしていく場としての役割を担っているのです。
ICIは3つの棟で構成されています。具体的には、ICIに参加するパートナーにとっての業務拠点となる「エクスチェンジ棟」、カフェや運動機器などを設置してリラックスできる空間が広がる「ネスト棟」、最新鋭の機器などを備えた総合実験棟である「ガレージ」。そのいずれにも、R-LIVEの音響システムが導入されています。
『エクスチェンジ棟』は、化学反応を起こすイノベーションの拠点です。フリーアドレスで、20名程が参加できるコロシアムベンチや大画面のタッチパネルサイネージなどもある。活発なブレストや対話によって、たくさんのアイデアが生まれる場となっています。
この空間を設計したときに大事にしていたのは、いかに新しいアイデアを生み出し、生産性高く仕事ができる場にするか。たくさんの植物を置いて緑視率を基準値以上に高め、ハイレゾの自然の音(可聴域以外の領域を含む)を聴いてもらうことで人の脳に刺激を与え、創造力を誘発する効果を狙いました。
一方、『ネスト棟』はモードが変わり、インスピレーションを生み出す木造大空間になっています。集中して作業をしたり、じっくりとアイデアを考えたりするためのソロワークスペース、足湯や仮眠ができるリラックススペースもあります。オフィスには似合わないハンモックや恐竜の巨大骨格模型など、文化や芸術をふくめ普段接しない新しいものや違和感のあるものに触れることで、新しい‟ひらめき”が生まれることを期待しています。
加えて、シリコンバレーをイメージしてつくられた実験棟「ガレージ」では、さまざまな最先端の技術開発が行われており、オフィス環境に関する技術開発も行われています。オフィスの緑視率が働く人々にどのような影響を与えるのか。R-LIVEの自然音を聴くことでどれだけ作業効率があがるのか。これらの技術開発が大学と共同で進められているのです。
ICIは、すべての棟に導入されているR-LIVEのまさに「実証実験」の場にもなっています。